夢に出てきてくれる彼、そして絶対に現れない彼

もう20数年前のことです。

酷い事故があって、共通の知己が二人亡くなりました。

それが仕事中のことだったので、葬儀やら後処理やら、家族への対応も含めていろいろなことが一時に起こり、周囲は疲れ果ててはいたものの、残された家族や小さい子供たちへの気遣いを忘れることなく、そしてしばらく時間が過ぎて行ったのです。

ある日、その故人の一人であるSさんが、夢の中に現れました。とはいえ、私が高いところから見下ろした広場に沢山人がいて、その中の一人がふっと顔を上げて目があったら、彼だった、という夢です。

朝になって「あー、なんか、笑っててくれたなぁ、Sさん」とほんわかした気持ちになったのですが、その日帰宅すると、彼の奥様から『葬儀その他でのご厚情を感謝します』という旨のお便りが届いていたのです。

もしかして、これを知らせてくれたのかな、と嬉しくなり、それを共通の知己のUさんに会った時に話したら、その人の夢にもSさんは現れていたのだそうです。

いわく。

Sさんの実家は遠方で、私よりも親しかったUさんはご実家での法要にも参加されたのだとか。

飛行機でその前日に移動して、ビジネスホテルに泊まっていたら、Sさんが見たこともないスーツと、グレーに細かい赤とんぼの模様のネクタイをして現れたのだそうです。

其のネクタイは見たことが無かったので、とても印象に残ったのだそうですが。

翌朝Sさんの実家を尋ねたら、そのままのスーツとネクタイが座敷に飾られていたのだそうです。

驚いてSさんの奥様に「これを着た彼に、昨夜夢の中で会ったんです」と言ったら、そのネクタイがSさんの一番のお気に入りだったのだとかで、「きっと遠くまで来てくれて嬉しかったんだと思います」と言う奥様と一緒に泣いてしまった、とのこと。

すごいねぇ、嬉しいねぇ、と話していたのですが。

実際、彼は他の人のところにも時々現れて、いつも笑っていてくれるので、みな少しずつその死を受け止めていったのです。

対照的に、誰の夢にも出てこない、というのがもう一人のHさんでした。

ご家族も「夢でも会いたいわよね」とおっしゃっていましたが、彼らも含めて、誰のところにも現れていなかったのです。

そんな数年後に、Sさん、Hさんの上司であった方と久しぶりに会った時に「いや、あのね、Hは帰ってきたんだよ…」というのです。

誰にも言っていなかった、という彼の話しは続きました。

「事故の少し後、当直室に二人泊っていて、夜明けが近いころに、ドアが開いて誰かが入ってきたんだって、二人とも気づいて、よく見たら、それがHだった」

ベッドの脇まで来たHさんは、そのうちの一人の脚に触れて、ふっと消えてしまったのだ、というのです。

その後その二人は朝まで震えて二人で同じベッドでくっついて眠れない時間を過ごし、朝イチで彼に報告氏に来たのだというのです。

「『Hが帰ってきました』って言うんだよね。最初、何言ってんだって思ったんだけど、おっさんが二人で狭いベッドでくっついて寝るって、やっぱりおかしいだろ?だから、それはきっと夢じゃなくて、本当に帰ってこられたんだなって思ったんだ」というその言葉に、なんだか不思議とほっとして「だったら、みんなのところに顔出してくれたらいいのにね」と言ってしまいました。

Hさんは、もしかしたら『幽霊』という存在になったのかもしれないけれど。

それでも、会えるものなら会いたいなぁ、と今でも私は思っています。

全然怖いとは思わない。むしろそんな姿でも会いたい。

事故で突然断ち切られてしまった彼らの命ですが、そうして今でも私たちの心に残っていて、節目節目で知己たちが集まると、彼らの思い出話が自然に始まるのです。

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