もし恐山でテディベアを見かけたら、それはこんな事があったからです。

有名な日本三大霊場のひとつ、青森県の恐山に行った時の話です。

別に霊場だからというのではなく、友人と二人で青森県を旅行した際、せっかくだから下北半島まで行ってみようという事になり、ついでに有名な場所だからという、安易な思いつきから訪れる事になりました。

八戸市から車で向い、地元の人には申し訳ないのですが、風が強いだけで、特に見るべきものもない地域を走り抜け、むつ市に入りました。さすがに観光地だけあって、そこからは迷う事もなく、あっさりと恐山に着きました。

テレビやネットなどで、いろいろな話を見聞きはしていたので、内心は恐る恐るという感じだったのですが、実際に着いてみると、確かに荒涼とはしていましたが宇曽利湖はきれいだし、そんなに怖い感じはありません。

私たちは有名なイタコに会えると期待していたのですが、今は大祭とか特別な時にしかいないそうで、少しがっかりしましたが、三途の川と書かれているかわを渡り、入山料を払って霊場に入りました。

恐山には死後の世界が映し出されているそうで、聞いた事のない難しい名前の地獄に模した風景がいたるところにあります。友人がネットで調べると、百三十を越える地獄があるとの事。中には温泉もあって、ネットにはいろいろと怖い話も書かれているそうですが、友人はネタになるからと入浴する気満々です。仕方なく付き合いましたが、まだ明るい時間でもあったせいもあり、強い硫黄の臭いがする温泉は、怖いどころか気持ちがいい気分にさせてくれました。正直なところ、もう帰ってもいいかという感じにもなったのですが、せっかくなので一通りは見て行こうという事になり、二人で歩き出しました。

ふと、その時に気づいたのですが、私たちとは少し離れた所に、若い女性がひとり立っているのです。何故、その人に目が向いたのかというと、大きなテディベアを抱えていたからです。その何とも場違いな感じが、目を引きつけたのです。しろじろ見つめるのも失礼なので、私はすぐに視線を外し、友人の後を追いました。

有名な賽の河原では、カラカラと回る風車を横目に、故事にならって石を積み、何となく卒塔婆に一礼して、先に進みました。

気になって、ちらりと後ろを振り返ると、あの女性はさっきと同じくらいの距離で着いて来ます。よく美術館などで、自然と並び、同じような速度で進んでいく様子に似ています。

奥へと向かうとさすがに霊場らしく、生前の服や着物が納められたお堂や、木々に草鞋や手ぬぐいが吊り下げられている光景には、怖いというよりも厳かな感じがしました。

ちなみにそこでも例の女性は、まだ後方にいます。

最後に地蔵堂と本堂をお参しました。

ふと本堂の右手を見ると、花嫁衣装を着た人形がずらりと並んでいるのです。友人によれば未婚のまま亡くなった女性が、あの世で幸せな結婚が出来るようにと奉納されたものだとの事。

その光景は生々しい迫力があり、思わず身震いするほどで、私は友人を置いて、先に本堂を出ました。

すると目の前にテディベアが地べたに座っているのを見つけました。

私はすぐに、あの女性のものだ、と悟りました。

しかし辺りを見回しても、女性の姿は見当たりません。

遅れて本堂から出来てた友人は、それを見て「何これ?」と首を傾げます。

私はずっと後ろにいた女性のだろう、と答えました。

友人はそれに首を傾げます。あれだけ目立っていた女性に気づかない筈はないので、とぼけるのはよせと言ったのですが、友人は本当に知らないと激しく首を振りました。

その女性の特徴を細かに話してもみましたが、彼は眉をひそめるばかりです。それどころか自分も後ろや周囲をよく見ていたし、絶対にそんな女性はいなかったと断言しました。

いた、いないを、論じ合っていても仕方がないし、テディベアは無視してしまおうかとも思ったのですが、とりあえずもう少し様子をみる事にしました。

けれども女性は姿を見せません。

そのまま放ってもおけないので、お寺の方に事情を話して預かってもらいました。

その後、テディベアがどうなったのかはわかりません。

もし恐山で場違いなテディベアを見る事があれば、それはきっとその時のものです。

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