夜に友人と迷い込んでしまったとても奇妙な住宅地

もう十年くらい前の話です。

大学時代の友人が地元に帰ってくるというので、久しぶりに会う事になりました。

彼はせっかくだから大学でお世話になった恩師にも会いたいというので、私から恩師に電話してみたところ、是非会いたいのだけれど、年を取ったせいか、足がちょっと不自由になってしまったので、よかったら家まで遊びに来てくれと言われました。泊りがけで来てくれれば、とっておきのお酒を出すよとの話だったので、私と友人は喜んで一晩泊めていただく事にしました。

恩師の家に行くのは初めてなので、詳しい道順を聞いておきました。それまで行った事はない住宅地でしたが、私にとっては地元ですし、地名くらいは聞いた事があります。道順もランドマークになるものを聞いて、大体のところはわかりました。

当日になり、私は駅で友人と待ち合わせ、割り勘で手土産を買うと、私の車で恩師の家に向いました。お酒を飲む事になっていたので、出かけたのは夕方過ぎでしたが、恩師の家まではそこからおよそ三十分といったところだろうと目算していました。

友人と昔話しながら車を走らせていると、周囲を林に囲まれた丘陵地帯に差し掛かった辺りで、急に霧が出てきました。私は対向車に気を付けながら、ヘッドライトをハイビームにして、聞いていたランドマークを探しました。誰もが知っている有名なコンビニですから、いくら霧が出ていても、見落とす筈はありません。

ところがいくら走ってもコンビニどころか、人家ひとつありません。いつの間にか対向車も途絶えました。時計を見ると三十分の筈が、すでに一時間ほど経過しています。

何かおかしいと思ったのですが、友人は呑気に「もうすぐだろう」と言っているので、戻る事はせず、とにかく先へと進みました。

しかし行けども行けども、何も出てきません。恩師の住むところはそこそこ大きな住宅団地です。何千人もの人が住んでいます。それなのに幹線道路沿いにコンビニもガソリンスタンドもないなんて事はあり得ません。

さすがに友人も変だと思い始めたようで、目を凝らして、辺りをきょろきょろし始めました。そしてポケットに手をつっこんで携帯を出し、ディスプレイを見て「嘘だろう」とつぶやき、携帯を私の方に突き出して「圏外だ」と言いました。

私たちはすぐにUターンすべきだと意見が一致したのですが、ふいに青い信号が見えました。とりあえずそこまで行ってみると、左に上っていく道があり、先にはどうやら住宅が並んでいるようです。私たちはほっとして、左折してみました。どこかに住所表示でもあれば、現在地がわかりますし、誰かがいれば道を聞くことができます。

しかし、道沿いに何軒も家は並んでいるのですが、どこも電気がついていません。ひと区画だけならば偶然もあるでしょうが、その上の区画も更に上の区画も、何十と並ぶ家がすべて暗く、物音一つせずに静まり返っているのです。

時計を見るとまだ夜の八時くらいで、どう考えても人がいれば電気はついている筈です。

「停電か?」と友人は苦笑いを浮かべましたが、「信号はついていたけど」と答えると黙り込んでしまいました。

私はただ「戻ろう」と言い、友人も頷きました。

そこからは無言で運転し、更に三十分ほど過ぎたあたりで霧が晴れてきて、続けざまに二台ほど対向車が現れました。そしてほどなくランドマークになるコンビニを見つけました。

無事に恩師の家に着き、遅くなった事をお詫びして、道に迷った経緯を話しました。

すると恩師は首を傾げるばかりで、この辺りはそんな何もない僻地じゃないし、ここから奥にまだ人が入らない建売住宅地はないと言われました。

私たちは腑に落ちないながらもその話は止めて、恩師とお酒を飲み、一晩お世話になりました。

翌日、私と友人は前日のように、道の先へと行ってみる事にしました。けれども恩師の言った通り、道沿いには前夜には見かけなかったガソリンスタンドやファミリーレストランなどがあり、結局、あの奇妙な住宅地も見つかりませんでした。

その後、誰に言っても信じてはもらえないし、同じ道を通っても、同じ体験をした事はないのですが、今でもあれは何だったのだろうかと、とても不思議な気持ちになってしまいます。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です