初夏の山道での悪夢。迫り来るゴーストライター

あれは7月も終わりを迎えた初夏の出来事でした。

その日は日曜日で、大好きなバイクでとある山奥の温泉まで足を運んでいました。

最高の温泉で、畳敷きの待合室で冷たいサイダーを飲みながら、気付いた時には寝てしまいました。

係員の方に「閉店ですよ」と言われて目を覚ましたらなんた時刻は23時でした。

「しまった」と思った私は係員の方にお詫びをして、急いで帰路に着きます。

その温泉施設から自宅に帰るには2つのルートがあり、一つは海沿いに沿うルート。もう一つは山の中を突っ切るルート。

近道なのは間違いなく後者なのですが、いかんせん街灯が一つもない真っ暗な山道です。海沿いのルートは街灯もしっかり整備されていて走りやすいのですが、時間的には40分ほど遅れて家に到着してしまいます。

私は迷った挙句、山を突っ切るルートを選択しました。

その山道は観光道路として有名で、昼間は有料ですが、夜間は無料で開放してくれているのです。

なので、特別路面が荒れている危険もなく、ゆっくり走れば安全に帰れるだろうという判断でした。

私はバイクに跨り、その山道へと向かいました。

予定通り、無人の料金所を通過して15分ほど順調に走っていると、目の前に突然の濃霧が発生しました。

「これはアンラッキーだな、、」と思いながら進むと、いきなり霧が晴れたんです。

そして晴れた後の山道の雰囲気がガラリと変わりました。

それまでの自分はどちらかといえば幽霊を小馬鹿にしていた節もあり、今回の様な真っ暗な山道でも、特に気持ち的に怖くなる事は無かったのですが、この時ばかりは明確に恐怖を感じたました。

何というか、ヘッドライトに照らされる木々に全く正気を感じられないのです。

このまま自分を吸い込もうとしているのではないかと錯覚してしまう程に。

流石にこれは良くないと思い、海沿いのルートに変更しようと考えた次の瞬間、後方ミラーにバイクのヘッドライトが見えたんです。

私はすっかり安堵している間に、そのバイクはあっという間に私の後ろに付いてきました。

なかなかにペースが速かったです。私は慌てて道を譲りました。

そのバイクはすぐに追い抜いてテールランプが先のヘアピンカーブに吸い込まれる様にして曲がって行きました。

私も遅ればせながらカーブを曲がります。

しかし、その瞬間ふと違和感を覚えたのです。カーブを抜けた先は600メートル程の直線なのですが、どうにもしっくりこない。

しかしすぐにその違和感に気づきました。

そうです。追い抜いていったバイクが見当たらないのです。私は確かにバイクのテールランプがカーブを曲がっていったの確認しました。

「事故だ!」そう思って私はバイクを道の端に止め、急いでそのカーブに戻りました。

しかし、周囲には事故のかけらも転がっていませんでした。そもそも、事故だとしたら、それなりに速度が出ていたはずですので、かけらはおろか、音すら聞こえなかったのは奇妙にも程があります。おかしいのです。ここで事故は起きていないのです。

では、私を抜かして行ったバイクはどこに行ったのか。そこは見通しの良い直線ですから、いくらペースが速いとはいえ、見えないなんてあり得ないのです。

私はすっかり恐怖に支配されてしまいました。急いで麓に降りようと決意した私はバイクのエンジンを始動しようとしました。しかし、点かないのです。なんどセルを回してもエンジンが点きません。するとそのうちに聞き覚えのあるエンジン音が聞こえてきました。そうです。私を抜かして行ったあのバイクのエンジン音です。しかもその音はどんどんこちらに迫って来ます。私は「頼む!頼む!」と叫びながら必死にセルを回していました。そしてようやくエンジンが始動しました。

私は持てる技術を全部使い、麓まで無事降りることが出来ました。

後から聞いた話では、その山道がある県のバイクの死亡事故は全て、その山道で起きているということでした。もし、あのエンジン音が私の元まで近づいて来たら、、そう思うと今でもゾッとします。

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